犬の生理(ヒート)とは?周期・期間・注意点など解説
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愛犬と暮らす皆さんに把握してほしい、犬の生理(ヒート)。人間の女性にも定期的に生理が訪れますが、犬と人間では仕組みや症状が異なります。
そこで今回は、犬の生理の周期や症状・注意点について徹底解説。女の子の犬と暮らす人はもちろん、男の子の飼い主さんもぜひ目を通していただき、正しい知識を身に着けておきましょう。
犬の生理(ヒート)とは?
犬の生理とは、いったいどんなものなのでしょうか?犬も人間と同様に、妊娠できる体になるための準備が行われます。
犬の場合、これを「ヒート」や「発情期」と呼び、定期的な周期で繰り返し訪れます。その際、出血を伴う場合もあるため「生理」と表現することも。ヒート中の女の子は、男の子を受け入れる準備をしているのです。
犬の生理と人間の生理は異なる
定期的な周期で訪れる点や、出血を伴う点は人間も犬も共通していますが、生理が起こる仕組みが異なります。
まず人間の生理は、妊娠が成立しなかった際に起こるもの。妊娠しなかった際、不要になった子宮内膜が剥がれ落ち、血液とともに体外に排出されます。その際、子宮収縮が起こるために痛みが生じます。これが「生理痛」です。
対して犬の生理は、体が妊娠に向けて準備をはじめるときに起こります。妊娠するために子宮内膜が厚くなり、充血することで出血する仕組みです。体調の変化はあるものの人間のような生理痛はないといわれており、中には出血がほとんど見られない子もいます。
犬の生理(ヒート)は、何歳から何歳まで?
人間の女性の場合は思春期を迎えるころに初潮があるのが一般的ですが、犬の場合はどうなのでしょうか。犬の生理は、性成熟を迎える生後6〜8ヶ月ごろにはじまることが多いです。犬によって個体差はあるものの、女の子であれば必ず訪れます。
高齢になるにつれて出血量が少なくなったり、生理周期が不規則になったりすることはありますが、犬に閉経はありません。避妊手術をしない限り一生涯にわたって生理が続くのも、人間との大きな違いといえますね。
犬の生理(ヒート)の周期や症状について
実際にどのくらいの周期で生理が訪れるのか、その際どんな症状が現れるのか、女の子の犬の飼い主さんとしては、知っておきたいポイントですよね。犬の生理は基本的に年に2回訪れるとされており、以下の4段階に分かれています。
- 発情前期
- 発情期
- 発情休止期
- 無発情期
「春と秋は発情の時期」というイメージを持つ人も多いことでしょう。ですが実際は季節性はなく、どの時期であっても発情・生理は起こります。生理中の犬に見られる症状を、各段階ごとに詳しく解説するので、確認してみてくださいね。
発情前期(約7日間)
発情出血がはじまり、男の子を受け入れる準備をしている期間が「発情前期」。卵胞からエストロゲンが分泌され、さまざまな発情兆候が見られるようになります。
- 外陰部の腫れ
- 陰部からの出血
- 頻尿・尿もれ
- 夜鳴き
- 下痢・便秘
- 食欲不振
- マウンティング(体を擦り付ける)
男の子の発情を誘発するフェロモン臭を発しはじめるのも、この時期です。しかし、まだ男の子を受け入れず、交尾は行いません。
発情期(約10日間)
男の子を受け入れ、交尾を許容するようになる時期が「発情期」です。発情期がはじまって3日前後で排卵が起きるといわれており、もっとも受精に適した時期となります。子犬を生ませる予定がある際には、このタイミングで交尾を行うのがベストです。
発情前期に見られたさまざまな症状は少しずつ落ち着いていき、出血量も減少していきます。
発情休止期(約2ヶ月)
発情出血がなくなり、男の子を受け入れなくなる時期が「発情休止期」です。この時期になると、妊娠の有無に関わらずプロゲステロンという黄体ホルモンが分泌されます。
ホルモンの影響により、妊娠時と同じように乳腺が発達して乳汁が出るなど、まるで妊娠しているかのような「偽妊娠」といった症状が現れます。偽妊娠については後ほど詳しく解説するので、目を通してみてください。
無発情期(約4〜8ヶ月)
発情が終わり、次の発情前期が訪れるまでの期間が「無発情期」。「発情休止期」と呼ぶこともあります。繁殖に必要とされるエストロゲン・プロゲステロンといったホルモンの分泌も少なく、この期間は特有の症状などは見受けられません。
愛犬が生理(ヒート)のときの注意点
生理中の犬には、普段は見られないような、さまざまな体の変化が現れます。自分の愛犬の様子が変わるだけでなく、ほかの犬に影響をもたらすことも。
ここでは、愛犬が生理のときの注意点を解説します。愛犬の健康を守るために、また、周りの人へ迷惑をかけないために、女の子の犬の飼い主さんはよく目を通してみてくださいね。
男の子の発情を誘発しない配慮を
男の子の犬には発情期はなく、女の子のフェロモン臭に誘発されて発情します。発情した男の子は女の子を強く求め、普段は飛び越えられないような高い塀を乗り越えたり、ケージや犬小屋を壊したりして脱走することも。
女の子を巡って男の子同士で激しいケンカするなど、よそのお家の犬とのトラブルを引き起こすこともあります。女の子の犬の飼い主さんは、むやみに男の子の発情を誘発しないような配慮が必要です。具体的な対策を紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
散歩は時間帯やコースをずらす
普段のお散歩中に近所の男の子によく会う場合、生理中は時間帯をずらしましょう。もしくは、いつもとは別にルートでお散歩をするのもおすすめです。
男の子にとって女の子のフェロモン臭は非常に刺激的なものであり、一緒に遊んでいるわけではなくても、近くにいるだけで発情を誘発してしまいます。なるべくほかの犬と接触しないよう、工夫してみましょう。
また、外出の際は愛犬にマナーパンツを履かせるのもおすすめ。生理の出血によりあたりを汚さないようにするのはもちろんですが、マナーパンツを履いていることで「あの子は生理中なんだな」と周りの人も把握できるようになります。男の子の飼い主さんが自ら接触を避けるための目印にもなるため、外出時にはマナーパンツの着用を検討してみてください。
ドッグランやトリミングサロンの利用を控える
生理中は、ドッグランやカフェ・サロンなどの複数の犬が集まる場所の利用は控えましょう。先述のとおり、生理中の女の子は男の子の発情を誘発してしまうため、周りの犬や飼い主さんに迷惑をかけてしまうおそれがあります。
特に多くの犬が自由に走り回っているドッグランでは、去勢・避妊をしていない犬同士で交尾をしてしまうリスクも。そのため、生理中の犬の利用をNGとしている施設も多いです。同様の理由から、ペットホテルも利用を断られてしまうことがあるので、旅行・出張などの予定がある場合は事前に施設に確認しておきましょう。
トリミングサロンも基本的に利用を控えることをおすすめしますが、個室で1匹ずつ施術を行うサロンであれば、生理中でも受け付けてもらえる場合があります。こちらについても、利用前によく確認してみてくださいね。
体調が悪ければ、シャンプーやワクチン接種は控える
人間の女性も、生理中や生理前は体調を崩してしまう人もいますが、犬も同じです。元気がなくなるだけでなく、体の免疫力が下がることで細菌感染を引き起こしやすくなります。体調が優れない場合はシャンプーやワクチン接種など体力を消耗することはなるべく避け、生理が終わってから行いましょう。
出血により外陰部の汚れや匂いがきになる場合は、部分的にシャンプーをしてあげるのがおすすめです。もしくは、濡れたガーゼやペット用のボディシートなどを使って、優しく汚れを落としてあげてくださいね。
発情休止期に見られる「偽妊娠」とは?
「偽妊娠(想像妊娠)」という言葉を、耳にしたことがある人もいることでしょう。発情出血が終わるころの犬には、たとえ妊娠が成立していなかったとしても妊娠中と同じような症状が出ます。これが「偽妊娠」という状態です。
先述のとおり、発情が終わる頃の犬は体内で黄体ホルモンが分泌され、妊娠していなくても乳汁が出るなどの症状が現れます。体の変化だけでなく、ぬいぐるみやおもちゃをケージ内に持ち込んで子育てをするような仕草を見せることも。症状が重たいと、飼い主さんがおもちゃに触ろうとしたときに激しく怒ったり、元気がなくなったりする子もいます。
時間が経てば自然と症状が落ち着くことがほとんどですが、気分の浮き沈みや食欲不振の症状がひどい場合には、獣医師に相談するのがおすすめです。
生理(ヒート)じゃないかも?症状が似ている病気
「出血がはじまったから、そろそろ生理かな?」そう思っていても、実は生理の出血ではなく病気が隠れている可能性も考えられます。女の子の生殖器系の病気は膣からの出血を伴うことが多く、生理と見間違いやすいため注意が必要です。
ここでは、生理と間違いやすい病気の種類と、その症状などを解説します。中には命に関わる危険な病気もあるので、しっかりと把握しておきましょう。
子宮蓄膿症
犬の子宮の病気の中でも特に代表的なのが「子宮蓄膿症」。子宮内膜で細菌感染を起こし、子宮の中に膿が溜まってしまう病気です。陰部からの出血があるため生理と見間違いやすいですが、お腹がパンパンに膨れ上がったり、血とともに膿が出たりします。
そのほかにも、以下のような生理中とよく似た症状が現れるのが特徴です。
- 多飲多尿
- 発熱
- 嘔吐
- 元気消失
- 陰部を気にする
生理との見分けが難しいですが、「生理が終わって間もないのにまた出血があった」「しばらく生理がなかったのに、急に出血があった」という際は要注意です。命の危険もある病気なので、早めに動物病院に相談しましょう。
膣炎
「膣炎」とは、膣で細菌感染による炎症が起こる病気。膣から膿を含んだような分泌液が出るため、陰部を気にして舐めるなどの様子が見受けられます。避妊手術の有無に関わらず、女の子の場合はどの犬種でも発症するおそれがある病気です。
基本的に洗浄液を使っての膣洗浄や、抗菌薬の内服で症状の改善を目指します。しかし、先天的な奇形や異物の混入によって膣炎を引き起こしている場合は、外科的治療が必要となることも。
膀胱炎
人間にとっても身近な「膀胱炎」は、犬もかかるおそれのある病気です。特に女の子は尿道が太くて短く、肛門とも近いため細菌感染を起こしやすい傾向があります。
通常の尿は透き通った薄い黄色ですが、膀胱炎になると白っぽく濁った尿が出ます。血の混じった尿が出ることもあるため、生理と見間違ってしまうことも。以下のような様子があれば、膀胱炎を疑いましょう。
- 頻尿
- 粗相が多くなる
- 排尿時に痛そうにする
- 尿が出ない、または尿の量が少ない
膀胱炎は、抗生剤を服用し改善を目指します。薬をきちんと飲みきらなかったり、トイレを我慢してしまう状況が続いたりすると再発を繰り返すので、注意が必要です。
子犬を産む予定がなければ、避妊手術を検討しよう
定期的な繁殖が必要なブリーダーさんなど子孫繁栄の予定がある人以外は、避妊手術も視野に入れることをおすすめします。発情期に異性の犬を求めるのは本能的な行動であり、交尾ができないことは犬にとって大きなストレスです。
避妊をしない限り、野犬に襲われたり、よその男の子と交尾をしたりして望まない妊娠をしてしまう可能性は、ゼロではありません。子宮蓄膿症をはじめとする生殖器系の病気のリスクを軽減するのにも、避妊手術は有効な手段です。
「子宮を取っちゃうなんて、かわいそう」と感じてしまいますが、大切な愛犬を守るためにも避妊手術を検討してみましょう。日帰りで手術可能な病院も多いので、かかりつけの獣医師さんに相談してみてくださいね。
心身ともに負担の大きい、犬の生理(ヒート)。リラックスできる環境を整えよう
生理中の犬は、心身ともに普段とは異なる状態になるため、落ち着かないことが多いです。いつもより粗相が増えたりイライラしているような様子が見受けられたりしますが、叱ったり慌てたりせず、愛犬が安心できるよう寄り添ってあげてくださいね。少しでもリラックスできる環境を整え、ゆったりと過ごさせてあげましょう。