犬の心臓病とは?初期症状や治療について解説
#健康
愛犬の年齢が上がるにつれて、発症のリスクが上がる心臓病。
「うちの子も、もしかしたらいつか……」と考えてしまう人も多いのではないでしょうか。
不安な要素の多い愛犬の心臓病ですが、早期発見・早期治療で進行を遅らせられる病気です。
本記事では犬の心臓病の種類や原因・治療法などを解説するので、ぜひ最後までご覧ください。
犬の心臓病における症状とは?
飼い主さんとしては愛犬の異常はいち早く見抜き、なるべくスムーズに治療を受けさせてあげたいですよね。
犬の心臓病の症状とはどのようなものがあるのか、どのような方法で発見できるのかを知っておきたいという人も多いでしょう。
まずは、犬の心臓病の初期症状や中・後期の症状について解説します。
犬の心臓病:初期症状
犬の心臓病をはじめ、どのような病気も病気の進行を遅らせたり病状を改善したりするには、早期発見・早期治療が重要となります。
しかし、犬の心臓病の場合は初期症状がほぼなく、発見しづらいのが難点です。
疲れやすい・咳をするなどの症状が見受けられる場合もありますが、健康診断の際に心雑音が聞こえたり、レントゲンや超音波検査を行ったりした際に偶然異常が見つかるというケースが珍しくありません。
心臓病を早期発見するためには、定期的な健康診断が有効な手段だといえるでしょう。
犬の心臓病:中・後期の症状
犬の心臓病が進行し、中期を迎えた頃にようやく自覚症状が現れます。
- 呼吸が荒くなる
- よく咳をする
- 運動を嫌がるようになる
呼吸が上手くできず、息苦しさや不快感からウロウロとして落ち着かないこともあります。
この頃になると異変を感じ、動物病院を訪れる人が多いです。
さらに病状が進み、心臓病後期に現れる症状は以下のとおりです。
- 呼吸困難
- 肺水腫
- チアノーゼ
- 横にならずにスフィンクスのような体勢で寝る
舌が青紫色になるチアノーゼや、肺に水が溜まり咳が出る肺水腫は特に有名な症状であり、失神や呼吸困難を引き起こすことがあります。
安静に過ごさせながら愛犬の様子をよく見ておきましょう。
犬に心臓病が起こる原因とは?
犬の心臓病には、どのような種類があるかをご存知ですか?
ひとくくりに「心臓病」といっても、種類はさまざまです。
先天性のものや寄生虫の感染によるものなど、心臓病の種類によって発症する原因も異なります。
ここでは、各心臓病の原因と症状について解説します。
中には予防が可能な病気もあるので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
僧帽弁閉鎖不全症
僧帽弁閉鎖不全症は「僧帽弁」という左心房と左心室の間にある弁が変形し、本来一定方向に流れている血液の一部が、左心室から左心房へと逆流してしまう病気です。
僧帽弁が変形する理由はさまざまですが、歯周病が原因になる場合もあるとされ、数ある心臓病の中でも、もっとも多い症例であるといわれています。
初期症状はほとんどなく、散歩の際に疲れやすくなる程度。
飼い主さんが早期発見するのが難しく、健康診断の際に心雑音が認められ発見にいたるケースが多いです。
進行すると肺水腫や呼吸困難などの症状が出ます。
肺動脈狭窄
「肺動脈狭窄」とは、肺動脈の一部が生まれつき狭くなっている状態のことです。
肺動脈の入り口には、血液の逆流を防ぐ「動脈弁」があります。
動脈弁がうまく機能せず、血液が正常に流れなくなってしまうのが肺動脈狭窄です。
肺動脈狭窄は先天性の疾患であり、疲れやすい・食欲がない・突然倒れるなどの症状がみられます。
しかし、肺動脈の狭窄の程度によってはなにも症状が出ないケースも。
動脈管開存症
動脈管開存とは、本来閉じているべき肺動脈から大動脈へ抜ける血管が開いている、先天性の心血管奇形です。
全身に流れるべき血液の一部が大動脈から肺動脈へ流れることによって、肺や心臓に負担がかかります。
軽度の場合は症状がほぼ出ないまま成犬へと成長しますが、重度の場合は子犬の頃から咳や呼吸困難の症状が出ます。
食欲低下や運動を嫌がる症状が見られることもあり、身体の成長に支障が出る可能性も。
心筋症
心臓の筋肉や心筋に異常が発生し、心機能に問題がある状態が「心筋症」です。
心筋症にはいくつか種類がありますが、犬に多く見られるのは心臓の筋肉が薄くなることで起こる「拡張型心筋症」。
左心房と左心室の壁が薄くなることで心臓が収縮する力が弱まってしまい、全身に十分な血液を届けられなくなります。
初期症状がないことが多く、進行すると咳・疲れやすさ・食欲不振といった症状が現れます。
重症化すると呼吸困難や失神を引き起こし、命に関わる可能性も。
心室中隔欠損症
心室中隔欠損症とは、左心室と右心室の間の壁に先天的に穴が開いている状態です。
これにより本来血液は左心房から左心室へと流れますが、左心房から右心室へ血液が流れ込んでしまい、心臓に負担がかかります。
穴が小さい場合は自然と閉じることもありますが、重症化すると肺への負担も大きくなってしまいます。
初期症状はほとんど現れませんが、聴診器で心音を聞くと雑音が認められます。
症状が重い場合は咳・運動の拒否・呼吸困難・食欲不振が見られることも。
不整脈
人間でもよく耳にする「不整脈」。
不整脈そのものは病名ではなく、心臓病の際に現れる症状のひとつです。
健康な成犬の心拍数の基準値に対して、心拍数が安定しない場合に不整脈といわれます。
犬の種類 | 1分間の心拍数の目安(成犬の場合) |
小型犬 | 60〜80回 |
大型犬 | 40〜50回 |
興奮状態・緊張状態にあるときに脈が乱れるのは心配ありませんが、専門知識を持たない人が判断をするのは危険を伴います。
不整脈が起きている場合は大きな病気が潜んでいる可能性が考えられるため、脈の乱れが気になる際は動物病院に相談してくださいね。
フィラリア症
蚊を介して寄生虫の一種であるフィラリアが体内に寄生し、肺動脈は右心室に住み着く病気が「フィラリア症」です。
寄生したフィラリアが体内に幼虫を産み、幼虫は全身の血管に移動。
血液の循環が妨げられるため、咳や吐血・運動を嫌がるなどさまざまな症状が現れます。
寄生虫が血管を塞いでしまうと急激に容態が悪くなることがあり、非常に恐ろしい病気ですが、投薬による予防が可能です。
屋外で飼育している犬はもちろん、室内でも感染の可能性はあるので確実に予防できるようにしましょう。
犬の心臓病の検査方法とは?
病気の検査と聞くと、大掛かりな検査を想像する人も多いことでしょう。
ですが犬の心臓病は、ほとんどの場合が聴診器を使っての心音確認で発見されます。
ほかの病気やケガなどでレントゲン検査をした際に、たまたま見つかるケースも。
心臓病は目に見える初期症状がほとんどないのが特徴ですが、初期の段階から心雑音が確認されることが非常に多いです。
心雑音が認められた後にレントゲンや超音波検査を行い、どの種類の心臓病なのか、進行度合いはどの程度なのかを調べます。
初期の段階で心臓病を発見できれば、進行を遅らせたりなるべく寿命を長くしたりといった対策をとることができます。
定期的に健康診断を受け、心音に異常がないかを獣医師に確認してもらいましょう。
犬の心臓病のチェックすべき症状
大切な愛犬には、なるべく苦しい思いをせず長生きしてほしいものですよね。
そのためには心臓病を初期の段階で発見し、早めに適切な治療をはじめることが重要です。
以下のチェックリストを参考に、愛犬の様子を日頃からよく観察しておきましょう。
犬の心臓病の症状チェックリスト
症状 | ポイント |
①心雑音はないか | 健康診断の際に必ず確認 |
②心拍数に異常はないか | 成犬の場合1分間に80回以下が目安 |
③呼吸数に異常はないか | 1分間に40回以下が目安 |
④食欲はあるか | 食欲減退や偏食の症状があれば要注意 |
⑤皮膚や被毛は健康か | 血液の巡りが悪いと被毛のパサつきや脱毛の症状が出る |
⑥散歩を嫌がる様子はないか | 運動を拒否したりすぐ疲れたりする場合は要注意 |
犬は具合が悪くても言葉で伝えることはできないため、「普段と比べて変わった様子がないか」を基準に、飼い主さんがいち早く気がついてあげる必要があります。
しかし犬の心臓病は、初期症状が分かりづらいことから、飼い主さんが自力で発見するのが非常に難しい病気です。
日頃から様子を確認するのはもちろん、動物病院での定期的な検査も欠かさずに行うようにしましょう。
犬の心臓病のステージ
がんなどの病気で「ステージ◯◯」といった言葉を耳にしたことがある人は多いと思いますが、犬の心臓病も進行度合いによってステージが分類されています。
どのステージでどのような症状が現れるのか、どの段階で発見できるのが理想なのか、飼い主さんとしては気になるところでしょう。
ここでは、犬の心臓病の中でもっとも発症率が高いとされている「僧帽弁閉鎖不全症」のステージ分類を、以下の表にまとめました。
ステージ | 症状 | 治療 |
ステージA |
・心雑音はない |
・投薬はなし |
ステージB1 |
・軽度の心雑音が認められる |
・投薬はなし |
ステージB2(☆) |
・軽度の心雑音が認められる |
・投薬の開始 |
ステージC |
・心雑音が認められる |
・投薬治療 |
ステージD |
・心雑音がある |
・投薬治療(肺水腫をコントロールする利尿剤など) |
聴診で発見できるのはステージB1以降であり、ステージB2までに発見するのが理想とされています。
次のステージへと心臓病を進行させないことが治療の目標です。
少しでも進行を食い止めるため、気になる症状があれば早めに動物病院に相談しましょう。
犬の心臓病の治療方法とは?
万が一愛犬が心臓病になってしまった際、どのような治療を行うのでしょうか。
犬の心臓病の治療は、病状を改善させたり完治を目指すというよりは、病状を今よりも進行させないための処置がメインとなります。
治療の内容や目的を正しく理解し、愛犬が少しでも長生きできるよう気をつけてあげましょう。
ここでは犬の心臓病の主な治療方法とその目的について解説します。
安静療法
激しい運動をしたり興奮状態になると、心臓への負担が大きくなってしまいます。
犬の心臓病の治療でもっとも重要とされているのが、安静療法です。
短い散歩程度なら獣医師と相談のうえ行っても問題ない場合もありますが、ドッグランで走らせるなどの激しい運動は避けましょう。
初期の段階では、愛犬自身も苦しさを感じず自覚がない場合があります。
そのため散歩の際になにかに興奮したり、飼い主さんが帰宅した際に喜んではしゃいだりして心臓に負担をかけてしまうことも。
なるべく激しい動きをしないように気にかけ、運動を制限してあげましょう。
食事療法
心臓病の犬は、ナトリウム(塩分)の制限が必要となります。
心機能が低下している犬が塩分を多く摂取すると水を飲む量が増え、腹水や浮腫の原因に。
食事療法は安静療法の次に重要であるといわれており、動物病院では心臓病用の療法食も販売されています。
かかりつけ獣医師と相談しながら、療法食も上手く取り入れ塩分を制限しましょう。
人間の食事は犬にとっては非常に塩分が多いため、絶対に与えてはいけません。
薬物療法
薬物療法は一般的に心臓病を治す目的ではなく、犬にとってのQOL(生活の質)を上げることを目的に行うことが多いです。
「薬を飲めば大丈夫」ということではなく、安静療法・食事療法を徹底したうえで薬物療法を行うものと考えましょう。
犬の心臓病の薬にはさまざまな種類があり、症状に応じて服用する薬は異なります。
初期の段階であれば投薬は必要ありませんが、末期になると同時に数種類の薬の服用が必要になることも。
外科的治療
現在はまだあまりメジャーな方法ではありませんが、外科的手術により完治を目指す治療方法も。
心臓の一部が変形したり先天性に穴が空いたりしていることが原因の場合、手術により修復し完治を目指します。
しかし、治療費が高額でリスクも高いことから、外科的治療が選択されるケースは決して多いとはいえません。
愛犬が心臓病になった際に気をつけることは?
心臓病を患っていると、日常生活でも気を付けなければならないことが出てきます。
少しでも愛犬の負担を軽減できるよう、普段から気をつけておきたいポイントを紹介します。
心臓病の愛犬を支えている飼い主さんは、ぜひ目を通していただき、参考にしてみてください。
運動制限をする
心臓病においてもっとも重要なのは、安静療法です。
走ったり遊んだりするのが好きな犬の場合、ガマンさせるのは心が痛みますが、少しでも心臓への負担を軽減するため激しい運動は避けましょう。
症状や病気の進行度合いによっては、10分程度の軽い散歩であれば行っても問題ない場合があります。
散歩をさせる際も自己判断ではなく、獣医師と相談のもと行うようにしましょう。
電車や飛行機でのお出かけは避ける
電車や飛行機に乗ることは犬にとってはストレスとなり、緊張・興奮状態になると心臓に負担がかかります。
慣れない環境での長距離の移動は、避けたほうが安全だといえるでしょう。
特に飛行機の場合は、ペットは客室に同行できず特殊手荷物として預ける必要があります。
移動中に容態が急変してもすぐに気がついてあげることができないのは、非常に心配ですよね。
無理な移動は避け、飼い主さんが出張・旅行などの際は愛犬は家族・親族に預けて、お留守番をさせるのが安心です。
ペットサロンやホテルに預ける際は心臓病を申告
ペットサロンやペットホテルに愛犬を預ける際には、心臓病を患っていること・服薬をしていることなどは必ず事前に伝えましょう。
心臓病の犬は、トリミングの施術中に興奮させないことが重要となります。
慣れない環境にいくと緊張・興奮状態になってしまう子もいるため、なるべく通い慣れたサロンを選び、手慣れたトリマーさんにお任せするのがおすすめです。
ペットホテルを選ぶ際は動物病院に併設されているホテルだと、万が一容態が急変した場合にも診察・治療をしてもらえるので安心ですよ。
犬の心臓病にまつわるQ&A
犬の心臓病は命に関わる大きな病気のため、色々と疑問点が出てきたり不安になったりと、悩みが尽きません。
ここでは、犬の心臓病にまつわるよくある質問にお答えします。
心臓病にかかりやすい犬種ってあるの?
愛犬が心臓病を発症しやすい犬種なのかどうかは気になるところですよね。
代表的な心臓病のひとつである「僧帽弁閉鎖不全症」は、以下のような小型犬に多いといわれています。
- チワワ
- マルチーズ
- ポメラニアン
- ヨークシャーテリア
- ミニチュア・ダックスフンド
- トイ・プードル
心臓の筋肉が薄くなる「拡張型心筋症」は以下のような大型犬に多くみられます。
- ゴールデン・レトリーバー
- ドーベルマン
- ボクサー
- セント・バーナード
- イングリッシュ・コッカー・スパニエル
上記の犬種は定期的に検査を受け、早期発見に努めましょう。
犬の心臓病は予防できる?
どのような病気も、予防できるに越したことはありませんよね。
しかし、犬の心臓病の場合は加齢や遺伝子的な問題が原因であったり先天的なものであったりと、予防が難しい病気です。
フィラリア症といった寄生虫が原因で起こる心臓病は服薬による予防が可能なため、定期的な検査と薬でしっかり予防しましょう。
また、歯周病菌が血液に乗って全員へ飛ばされることで、心臓病を引き起こすともいわれています。
子犬のうちから歯磨きの習慣をつけ、口腔内の清潔・健康を保つことも予防策のひとつといえるでしょう。
愛犬に寄り添い、治療に取り組もう
加齢とともに発症率が上がり、命にも関わる犬の心臓病。
愛犬が心臓病だと判明するとショックが大きいですが、早めに発見し適切な治療を行えば、寿命を延ばしたり症状を軽くすることが可能な病気です。
飼い主さんが優しく寄り添い、励ましてくれることで愛犬も安心できます。
不安もありますが、かかりつけの獣医師と相談しながら前向きに治療に取り組んでいきましょう。